日本や海に囲まれた島国。水資源が豊富なことが大きな特徴ですが、逆に水に囲まれているからこそ起きてしまう災害が台風やゲリラ豪雨などによる冠水や水没被害です。そして、台風や豪雨などで河川が氾濫すれば道路や住宅に大きな被害が発生しますが、車も同様に大きな損害をうけることになります。
では、もしマイカーが水による被害を被ってしまったらどうすればいいのでしょう。そもそも冠水路を車で走行することは可能なのか。可能ならどれくらいの深さなら大丈夫なのか、水没した道路で車が立ち往生してしまったらどうやって脱出すればいいのか。
さらに、水没してしまった車は修理ができるのか、自動車保険はおりるのか。何かしら事前に用意しておける対策はあるのか。日本に住んでいる限りいつ自分が被害者となるかわからないそんな車の水没や冠水に関して、いざというときにどう対処すべきなのかについて詳しく調べてみました。
INDEX目次
ドライバーにとって自然災害は大敵
運転するうえで特に注意すべきことといえば交通事故でしょう。道路には初心者からベテランドライバー、高齢者など様々なドライバー降りそれぞれが自分の都合で車を運転しています。また車以外にもバイクや自転車、歩行者なども同じ道路を利用しています。
当然そこには多くのリスクがあり、どんな危険が潜んでいる予想がつきません。最新の車には優れた先進安全機能が搭載されていますが、それでも完全に事故を防ぐことは難しいでしょう。ドライバーは常に周囲に注意を払い、極力安全な運転を心がけていなくてはいけません。
また、そういった交通事故だけでなく気をつけておかないといけないのが自然災害です。日本は地震や台風、豪雨に降雪などの自然災害の多い国ともいわれています。特に近年頻発しているのがゲリラ豪雨などによる水害です。
こういった自然災害は気を付けていても突然遭遇する可能性もあるものです。それは車を運転しているときだけでなく駐車していただけなのに、気が付いたら車が水没してしまったなどということもあります。日本にいる限り水没や冠水といった水にまつわる自然災害のリスクが常に身近にあることを頭に入れておくべきでしょう。
もし、自分の車がそのような冠水や水没被害に遭遇してしまったらどうすればいいのでしょう。完全に防ぐことは難しいですが、できる限りの対処方法を知っておけばもしかしたら最悪の被害を免れることができるかもしれません。知っておいて決して無駄でないはずです。
車はどこまで水没・浸水しても大丈夫?
ニュースなどで冠水した道路の途中で車が立ち往生している映像を見たことはないでしょうか。車が水没しているわけではないのに、なぜ走り抜けることができなかったのでしょう。そんな疑問をもった方もきっといるはずです。
実は車はある程度の水深までは耐えられるように設計されていますが、その耐えられる水深というのは思いのほか浅いのです。一般的にセダンなどの乗用車であればドアの下端、つまり自動車の床面が浸からない程度(タイヤの高さの半分くらい)までが限界です。この、床面が浸からないくらいというのが一つの目安で、それは車高の高いSUVやミニバンでも同様です。
だったら床面が浸からなければ冠水路を走行してもいいのかというとそうとも限りません。冠水路を走行すると車によって巻き上げられた水がマフラーやエンジンルームや車内に侵入し、故障となってしまう可能性があります。つまり浅くても冠水路は走行しないのが正解なのです。
もし、高架下や電車のガード下、立体交差のアンダーパスなど周囲より低い場所が冠水しているのを発見したら、進入せずに迂回するのが賢明です。もし発見が遅れて冠水路に突っ込んでしまったら水をまき上げないように慎重に走り抜けます。そして、水に浸かった状態ではエンジンを絶対に切ってはいけません。排気圧がなくなりマフラーから水が浸入して車が動かなくなってしまいます。最悪はエンジンが壊れてしまいます。
車が水没・浸水したらどうなる?
では、もし注意していたのに車が冠水路を走行し水没してしまったらどうなるのでしょうか。どのような問題が起きるのでしょうか。
部品が劣化する
道路にまであふれてしまった水というのは真水ではなく塩分や多くの不純物が含まれています。そのため金属パーツの腐食の原因となり、マフラーやドア、フロアなどの部品をサビさせて劣化してしまうでしょう。隙間にまで入り込んだその水分や不純物は完璧に取り除くのが難しいので部品交換となってしまうでしょう。
電気系統が故障する
車が冠水被害にあってしまったら、車の電源は絶対にONにしないでください。ロードサービスを呼びすぐに修理工場やディーラーに持ち込み点検を行いましょう。水没した場合ハーネスや各種電装部品に大きなトラブルを引き起こします。
水分や塩分、泥などによって電気回路がショートしてしまうので電源を入れたことによって火災が発生してしまうこともあります。少なくとも電装品は故障している可能性が高いので交換は必須です。
車内の汚れやカビの原因となる
車内にまで水が浸入してしまった場合、問題となるのは汚れやカビです。前述のとおり冠水路の水は非常に汚れており雑菌も多く含まれています。そのため車内で乾いてしまうとその雑菌が繁殖して悪臭を発生させてしまうのです。
さらに水分によってカーペットやシートにカビが繁殖してしまいます。一旦悪臭やカビが発生してしまうと掃除程度では取り除くことはできません。シートやカーペットをすべて剥がし、完全に乾燥させたうえで徹底的なクリーニングを行う必要があります。それでも臭いが取れない場合は内装パーツの交換も検討しなくてはなりません。
廃車となる可能性もある
水害の被害の程度によっては、費用をかければ修理が可能かもしれませんが、多くの場合一旦水につかってしまった車は廃車となってしまうことが多いでしょう。買取りや下取りに出そうとなっても水没車は「冠水歴有り」という扱いになり、中古車市場では「修復歴有り」よりも価値が低いと評価されます。
費用をかけて修理したとしても水没車はトラブルが起きる可能性があるので売りたくても値段が付かなくなり、結果廃車となってしまうことがほとんどです。
車が水没・浸水したときの対応
もし自分が運転する車が水没して動けなくなってしまったら、その後はどのような対応をすべきなのか。まずは脱出を考えてドアを開けられるかどうか確認しましょう。ドアが開くのなら落ち着いてシートベルトを外し、すぐに車をから脱出し、路上のマンホールや障害物に気を付けながら道路の外の安全な場所に避難します。では、ドアが開かなかったらどうすればいいのでしょう。
車に閉じ込められたときの対応
過去にJAFによって行われたテストによると車が水没した場合、30cm程度の水深ならドアが開けられても、60cmとなると開けるのが困難になるという結果が出ています。ドアが開かないとなったらそれ以外の脱出方法を全て試しましょう。大切なのは危険な車内から少しでも早く避難することです。以下のようなことを試してみてください。
窓を開ける
ドアが開かないのなら窓からの脱出を試みます。最近の車のウインドーはほとんどがパワーウインドーですが、車が水に浸かっても電気系が生きていればスイッチが使えウインドーを開けることができるはずです。すぐにすべてのパワーウインドースイッチを押してどこかのウインドーが開かないか確認します。車は前輪側に重いエンジンを積んでいるので後席側のウインドーが開く可能性が高いでしょう。ウインドーが開いたのを確認したら速やかにそこから脱出しましょう。
窓を割る
パワーウインドースイッチを押してもウインドーが開かないとなったら窓を割ることを試みてください。車のガラスは頑丈なので素手で割ることは困難ですが、カー用品店などで売られている専用の脱出用ハンマーなどが車内にあれば、簡単にウインドーガラスを割ることができます。万が一を考えてそのような脱出用ハンマーは車内に常備しておくことをおすすめします。ガラスが割れたたらケガに注意しながらそこから脱出しましょう。
車内に水が入るのを待つ
ドアもウインドーも開かない、脱出用ハンマーも車内にないとなったら最終手段は車内と車外の水位の差がなくなるまで車内に水が浸入するのを落ち着いて待ちましょう。車内にある程度水が入れば、ドアが受けている水圧の影響が和らぎドアを開けられるようになるはずです。そしてドアロックを解除して足でドアを蹴り開けて脱出します。
水が引いたあとの対応
では、水が引いた後の車はどうすればいいのでしょう。そのままエンジンをかけてディーラーなどに持ち込めばいいのかというとそれはNGです。一旦水に浸った車両は、外観上問題がなさそうに見えても、故障している可能性があり危険です。以下のような正しい対処が必要です。
参考:https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr09_000100.html
自分でエンジンはかけない
まず、エンジンをかけるのは絶対に避けてください。電気系統が水没によって故障している可能性あります。エンジンをかけようとした途端電気系統がショートして感電事故が起きるかもしれません。また、ショートした回路から火花が飛び車両火災が発生するおそれもあります。特に、ハイブリッド車やBEV(電気自動車)は、高電圧の駆動用バッテリーを搭載しているので危険です。むやみに触らないのが賢明です。
バッテリーのマイナス側のターミナルを外す
次に可能であれば感電事故や発火事故を防ぐためにバッテリーのマイナス側のターミナルの配線を外します。ボンネットを開けて、念のためゴム手袋をしたうえでマイナス端子から配線を外します。さらに、プラス端子側の配線も外してビニールテープなどで両方のターミナルを覆っておけば万全です。こうしておけば電装系に電気が流れなくなるので感電や発火事故のリスクが下がります。
レッカー車やロードサービスに連絡する
あとはJAFなどのロードサービスに連絡をして、ディーラーや自動車修理工場に車を持ち込みます。修理が可能か相談を行い、修理が可能なのであればそこで修理を依頼してください。できれば、30cm以下の水深でもタイヤが水に浸かってしまったという場合も、車が問題なく使えていたとしても一度ディーラーや修理工場に持ち込み点検を行った方がいいでしょう。
車が水没・浸水しないための事前対策と予備知識
ゲリラ豪雨などは避けがたいケースですが、できるだけマイカーが水没や浸水の被害にあわないためにはどうすればいいでしょう。何か対策はあるのでしょうか。
冠水した道路には入らない
基本中の基本は冠水した道路に絶対侵入しないということです。浅そうだから通り抜けられるだろう、などと甘く見ないことです。車は想像以上に水に弱い乗り物です。避けることが可能なのであればその道は通らないようにします。過去に冠水事故があった道路であれば、大雨となった場合極力避けるように心がけましょう。
冠水しやすい場所を把握する
また、事前に冠水しやすい道路を把握しておくのもいいでしょう。自宅近くや職場近くで冠水しやすい道路はあるのかどうかは、国土交通省が公開している「道路冠水注意箇所マップ」や、国土交通省が運営する、「ハザードマップポータルサイト」などを確認しておくのがおすすめです。
天気予報をこまめに確認する
さらに、ゲリラ豪雨や台風などの予報があれば運転を控えるといった心構えをしておくのも大切です。近年大きな被害を起こしているゲリラ豪雨は想像以上に短時間で大量の雨を降らせます。これくらいの雨なら大丈夫だろう、などと油断していると危険です。注意してください。
水没・浸水した車は修理できる?保険の使用可否は?
車が水没による損害を受けた場合、修理は可能なのでしょうか。また、自動車保険(任意保険)の車両保険は使えるのでしょうか。
ディーラーや整備工場で修理ができる可能性も
被害の程度によりますが、軽度なダメージであれば修理が可能なケースもあります。その場合やディーラーや修理工場に依頼してクリーニングを行って破損したパーツの交換を行います。ダメージのレベルの見極めは難しいので、まずは修理工場やディーラーに持ち込み相談してみてください。
ただ、水没車で修理が可能というケースは決して多くはありません。いくらきれいにクリーニングしても、故障したパーツを交換しても、一度浸水した車にはどこかに水分や雑菌が残りのちにサビが発生してボディにダメージを与える可能性高いでしょう。そのため中古車市場でも値段がつきません。元の状態に完全に戻すことは難しいので多くの場合は廃車となってしまいます。
もちろん、車の価値を超えるような大金を払えばどんな車でも修理は可能ですが、一般的な乗用車であればそこまで費用をかけて修理しても車の価値は元に戻りません。そのため意味はあまりないでしょう。廃車にして別の車を購入するほうが出費は少ないはずです。
車両保険に加入していれば自然災害である水没に対しても補償されます。修理不能の全損となった場合でも、時価相当額(保険契約時に決めた額)の満額の保険料が支払われるはずです。場合によっては受け取った保険で修理費用を補うこともできますが、水没のような重大なダメージのケースでは修理代も高額になり受け取った車両保険ではおそらく賄うことはできないでしょう。
必要に応じて廃車を検討する
修理費用が想像以上に高額だったり、クリーニングや修理を行っても悪臭が取りきれなかったりする場合は、残念ですがその車を廃車にすることを検討する必要があります。自分で判断ができないという場合は修理工場などで専門家に判断してもらいましょう。
そして、廃車にするか事故車専門の買い取り業者に買い取ってもらうかその後の対応を検討してください。水没車や冠水車は中古車として値段がつかなくても廃車としては値段が付く可能性があります。
まとめ
ゲリラ豪雨や台風などによる水害はとても身近な自然災害の一つです。日本全国どんな場所に住んでいても被害にあう可能性があります。車を運転している際にゲリラ豪雨などに見舞われた場合、普段使い慣れている安全なはずの道路が一転して危険な場所となってしまう可能性もあります。
もし突然の豪雨や台風に見舞われたら、決して慌てず冷静な判断をして下さい。最低限脱出用ハンマーを常備しておき、車が水没して動けなくなったら、紹介したような脱出方法を試してみてください。
でも、できればそのような脱出方法を試さなくて済むよう強い雨の際は川の近くやアンダーパス、高架下に下り坂など冠水の可能性が考えられる道路は使わないなどといった判断も必要です。たかが雨ですが冠水や水没による車へのダメージは重大です。くれぐれも自分や自分の車が被害にあわないように普段から十分気を付けておいてください。