実用化に向けて現在急激な進化を遂げているのが自動運転技術です。自動運転は、ドライバーがステアリング操作もアクセルやブレーキ操作もせずに、勝手に車が目的地まで移動してくれる夢のような技術です。
映画や漫画などフィクションの世界では、当たり前のように登場してきたものですが、現実の世界でも、その実用化がもう目の前まで来ています。
実際、ある程度のレベルのものはすでに導入も進んでいます。では実際のところ、現時点ではどこまで進んでいるのでしょう。また、そのあらためてそのメリットはなんなのか、またデメリットはないのかなどについて検証してみました。
自動運転とは?どんな技術でいつから実装されるの?
未来の自動車技術されてきた自動運転ですが、その定義はどのようなものなのでしょう。また、いつごろから現実の世界に実装されるのでしょうか。
自動運転はどんな技術?
ドライバーによる運転操作を必要としないで、車が自動的に走行してくれるのが自動運転であり自動運転が可能な車のことを自動運手車と呼びます。日本では、2020年に国土交通省によって「自動運転システムが全ての運転タスクを代替する状態を自動運転車と呼ぶ」と定義されています。
自動運転技術は、国土交通省が定めたものではレベル1からレベル5までの5段階のレベルに分けられています。もしレベル5の完全自動運転化が実現すれば、走行中ステアリング操作もアクセルやブレーキの操作もすべての運転操作が不要となり、ドライバー(自動運転となった場合は単なる乗員?)は車内で動画を見ていても、ゲームをしていてもいい。車が安全に、効率の良いルートを使って勝手に目的地まで送り届けてくれるのです。
自動運転が実用化される時期はいつから?
日本政府は2025年を目標に、レベル5の完全な運転自動化を目指すと発表しています。では実際、今(2022年10月現在)どれくらいのレベルまで実用化されているのでしょうか。
現在、実用化されている自動運転技術はレベル1~2(各レベルについては後述)です。最新の車は衝突被害軽減ブレーキなどの標準搭載が義務化されているので、自動運転レベル1はすでに標準仕様となっているといっていいでしょう。
また、ほとんどの車で導入されているいわゆるADAS(Advanced Driver-Assistance Systems, 自動ブレーキ装置や急発進防止装置などを含む先進運転支援システム)にはクルーズコントロールやレーンキープアシストなども装備されていますので、いうなれば初歩的なレベル2までは、すでにほとんど車に備えられているともいえると思います。
ただし、現在のADASでは、ハンズオフ(運転中にハンドルから手を離すことができる技術)はまだ完全には実現していませんので、今後はハンズオフが可能な本当の意味でのレベル2の実用化が期待されています。
ただ、条件付きですが、ハンズオフに加え、アイズオフ運転(ドライバーによる周辺監視が不要で運転中に前方から目を離してもいい)まで可能なレベル3を実現した国産車もすでに限定ですが販売されています。それが2021年3月5日に発売されたホンダのレジェンド(公道走行可能な市販車としては世界初)です。
レジェンドのレベル3アイズオフ運転は、非常に限定された範囲内でのみ可能となっており、渋滞に遭遇して「車速30km/h以下」まで落ちた状態ではじめて作動するといったもの。
ただ、このことは非常に大きな意味を持っており、国土交通省は、2025年を目処に高速道路での完全自動運転の実現を目指していますが、ホンダが世界に先駆けレベル3の自動転車を市販化したことで、2025年の実現が現実的なものになったといえるかもしれません。
自動運転のメリットとは?
自動運転の実現化に向けて国も自動車メーカーも様々な取り組みを行っていますが、そもそも自動運転にはどのようなメリットがあるのでしょう。
運転ミスによる事故防止
交通事故の主な原因は、ドライバーによる操作ミスや確認や判断のミスです。いわゆる人的要因がほとんどです。
しかし、自動運転が実現すれば車に搭載されたレーザーやセンサー、カメラの情報に加え、道路からの情報も使って、コンピュータが瞬時に判断。自動ブレーキや速度管理、車線維持機能で安全な走行を可能とするので、ドライバーによる脇見運転や操作ミスなども効果的に防ぐことができます。つまり交通事故の防止が可能となるのです。
渋滞に繋がる運転の抑止
自動運転では、道路状況をリアルタイムで把握しつつ、他車からの情報も取り入れることで最善のルートを割り出すことができます。そして、適切な車間距離の維持や、速度の調整が可能なので渋滞が発生する状況が防ぐことができます。
高齢者の移動手段の確保
高齢化社会で問題となっているのが高齢者の移動手段の確保です。マイカーを移動手段として利用してきた高齢者が、加齢に伴う運転能力が低下し、各地で悲惨な交通事故が発生しています。
しかし、自動運転が実現すれば、高齢者だけでなく現在は運転免許の取得が難しい障碍者であっても、車による自由な移動が可能となります。自動運転が実現すれば、そういった高齢者や障碍者の方の生活を安全にサポートすることができるようになるのです。
CO2(二酸化炭素)の削減効果
自動運転によって、車の不必要な加減速がなくなり、渋滞が緩和すれば、無駄な燃料の消費を抑えることができます。結果CO2(二酸化炭素)の削減効果も期待できます。
ドライバーの運転負荷を軽減
自動運転によってドライバーは運転が不要となればドライバーは運転によるストレスから解放されます。また、渋滞が発生する状況が起こりにくくなるので、渋滞による遅刻など、渋滞によっておきるストレスからも解放されることになります。
物流業の効率化
車による物流の効率化も期待できます。自動運転によって配送ルートが最適化されれば、渋滞なども緩和されるので物流の効率のUPが期待されます。
自動運転のデメリットとは?
多くのメリットのある自動運転ですが、逆にデメリットはないのでしょうか?
事故が発生したときの責任問題
自動運転のリスクとして議論されているのが、事故が発生した際の責任問題です。その事故の責任はドライバーにあるのかそれとも車を作った自動車メーカーなのか、または自動運転のソフを開発したソフトウェアメーカーなのか、その責任の所在をどうするべきか非常に難しい問題なのです。
現時点では、自動運転車で交通事故が発生した場合、その車が自動運転レベル2までであれば「ドライバーの責任」。そしてレベル3になると「ドライバーと自動運転システム両方の責任」といったガイドラインが設けられています。
さらに進んだレベル4以降となった場合は、全責任は「自動運転システム」とされているのですが、最終的な判断は、法整備も含めまだ完全には決まっていません。
もし自動運転者で交通事故にあった場合、だれが責任をとるのかで揉める可能性があります。これは大きなデメリットといえるでしょう。
法整備が必要
これまではなかった自動運転車による交通事故が今後起きる可能性があるので、現在、新たな法整備も必要とされています。
また、高齢者や、障碍者など自分で運転はしないけれど、個人で車を所有し、それを移動手段として利用する、といったことが今後実現するかもしれません。
そうなれば自動運転限定の、新たな免許証の必要性なども検討する必要があるでしょう。
安全性や信頼性の実証
自動運転に関してまだまだその安全性がまだ一般的に認知されていません。車に運転のすべてをゆだねることに関して、そこまでの信頼性を得るには、安全性や信頼性の実証をさらに進めていかなくてはいけないでしょう。
また、自動運転では、ネットワークからインフラ情報を得てそれらの情報を利用することになりますが、悪意を持った外部からシステムのハッキングなどによるトラブルの懸念もあります。
自動運転中にシステムがハッキングされれば、事故を誘発するようなウイルスに侵入する危険性もあります。また、駐車中の自動運転車を勝手にコントロールされ、テロや犯罪行為に使われる可能性もないとはいえません。
運転サービスの就業人口ヘの影響
さらに、不安視されているのが自動運転によって、トラック運転手やタクシー運転手など運転を生業とする人の仕事をうばってしまうのではないかということです。これは自動運転による社会的なリスクといえるかもしれません。そういった物流業界への影響についても議論は必要でしょう。
【レベル別】自動運転の具体的な機能とは?
国土交通省は自動運転の段階をレベル1~レベル5までに分けていますが、具体的に各レベルはどのような内容となっているのでしょう。
レベル1・運転支援
ステアリング操作や加速、減速といった操作を相互連動せずにサポートするのがレベル1。最近の車に搭載が進んでいる運転支援システムがこれに当てはまる。
レベル2・特定条件下での自動運転機能
ステアリング操作と加速、減速の操作が連動して運転をサポートするのがレベル2。車線を維持しながら前のクルマについて走ることや、遅い車の自動追い越し、高速道路の合流を自動で行うことなどがこれに該当。すでにいくつかの自動車メーカーはこのレベルの自動運転システムを搭載している。
レベル3・条件付自動運転
高速道路など限定された場所で全ての操作を自動化するのがレベル3。緊急時や自動運転の作動が困難になったときはドライバーの適切な対応が必要。
レベル4・特定条件下における完全自動運転
レベル4では特定の場所で全ての操作の完全自動化運転が実現するというもの。緊急時の対応も自動運転システムが判断・操作を行う。ドライバーの運転操作は必要なし。
レベル5・完全自動運転
常に自動運転システムが、全ての運転操作を実施するのがレベル5。ドライバーによる操作が一切不要なので、レベル5となった車では、ハンドルもアクセルも必ずしも必要がなくなる。
現在市販車では限定的ですがレベル3までが実現しています。ただし、事故の責任や法整備など解決すべき問題があって、レベル3以降の自動運転に関しての実用化は、現時点ではまだ曖昧なものとなっています。
【メーカー別】自動運転機能・サポート機能をご紹介
ホンダ:Honda SENSING
ホンダは、全車にADAS(先進運転支援システム)「Honda SENSING」を搭載しています。アダプティブ・クルーズ・コントロール (ACC)や、歩行者事故低減ステアリング、路外逸脱抑制機能などがセットとなっており、自動運転レベル2に相当する機能を持っています。
また、ホンダは世界初の自動運転レベル3を実現した市販車、レジェンドを2021年3月5日に発売しました。
レジェンドには「Honda SENSING」をさらに進化させた「Honda SENSING Elite」が搭載されていますが、レジェンドは限定モデルだったため2022年1月に販売終了となっています。
トヨタ:Toyota Safety Sense
トヨタは、全車にADAS(先進運転支援システム)「Toyota Safety Sense」を搭載しています。レーダークルーズコントロールやレーントレーシングアシスト機能を持ち、自動運転レベル2に相当する機能を持っています。
また、最新機能としてトヨタ チームメイト「アドバンストドライブ(渋滞時支援)」、「アドバンストパーク 」があります。
アドバンストドライブは、高速道路・自動車専用道路走行時のハンズオフ運転を可能にして運転負荷を軽減するというものです。
アドバンストパークは、駐車場に車が自動でステアリング・アクセル・ブレーキ操作を制御して、縦列駐車・出庫、並列駐車などの駐車操作をアシストしてくれる機能です。
日産:NISSAN ProPILOT2.0
日産は、高速道路の単一車線での運転支援技術として「プロパイロット」を採用しています。プロパイロットは渋滞走行と長時間の巡航走行で、アクセル、ブレーキ、ステアリングのすべてをシステムが自動で制御(ハンズオフではありません)し、ドライバーの運転の負担を軽減してくれます。
また、国産車初のハンズオフ機能を備えた「プロパイロット2.0」を実現したのが日産です。同社のアリアの搭載されています。
「プロパイロット2.0」は、高速道路や自動車専用道路においてドライバーが設定した車速を上限に、先行車両との車間距離を保ちながら車線中央付近を走行する運転操作や車線変更操作を支援するというものです。
「プロパイロット2.0」は限りなくレベル3に近い高度なレベル2に相当する機能を持っています。
まとめ
完全自動運転が実現すれば、私たちのカーライフは大きく変わることになります。今まではドライバーがおこなっていた運転操作が全く必要となくなるので、運転から解放されたドライバー(乗員)は車での移動時間で何ができるのか、新たな自動車の使い方が提案されていくはずです。
ただ、実用化に向けてはまだまだ議論しなくてはならないこともあります。改正道路交通法が2020年4月に施行され、自動運転レベル3の自動車の公道走行が解禁されていますが、交通事故が起きた際の責任の所在など、現行の法律では裁ききれない問題も懸念されています。
そのように自動運転はメリットばかりではなく、まだまだ様々な課題もあります。しかし、日本政府は2025年にはレベル4自家用車の自動運転実現を目指していますし、他の国ではすでにレベル4無人自動運転車両を利用したサービスも開始しています。このように完全自動運転の実用化に向けて、世界は着実に進んでいるのは間違いありません。
※参考資料:「自動運転の実現に向けた今後の国土交通省の取り組み(2019年11月)」